【日语有声读物】我が家に猫がやってくる-3

夜道をバス停に向けて歩きながら、トトちゃん、と呼んでみる。ちいさな猫は大きすぎるキャリーバッグのなかでちんまりとうずくまり、鳴かない。トトちゃん。トトちゃん。交互に呼びながらバスに乗った。バスが揺れたとき、一言だけ、ニャア、と鳴いたが、あとはずーっと黙っている。うちに着き、キャリーバッグから猫を出す。三カ月で、赤ちゃん猫、というほどにはちいさくないが、それでも子猫である。夫がトイレに連れていくと、しゃー、とおしっこをして、ぽてぽてと歩き、台所におとなしく座る。なんて静かな猫なんだろうと、どぎまぎしながら私はその姿に見入る。膝にのせると、体を丸めて、ちいさなちいさな頭を私の手の甲にぽとりと落とし、眠るではないか。今までゆきずりの猫しかさわったことのない私は、感動のあまり泣きそうになった。なんてかわいいのだ。ああ、なんて、なんて、なんて。その日、猫は私の枕に頭を置いて寝た。目を開けると猫がいる。いちいち驚く。猫が枕に頭をのせて眠ることにも驚いたが、猫がいること自体にも驚くのである。明くる朝、トトはずっと前からそうしていたようにごはんを食べて水を飲んだ。夫と私は自由業だが、仕事場は自宅とはべつの場所にある。置いていってだいじょうぶかな、と心配しつつも玄関を出ると、昨日あんなに鳴かなかったトトが、にゃあああ、にゃあああとせつなそうに鳴いている。玄関の戸の外で私たちは泣きそうな顔を見合わせた。どうしよう。出かけるのよそうか。でも仕事が。しばらく言い合って、「う」とこらえてそのまま出かけた。結局、その日は夫が早く仕事を切り上げて家に帰った。しかしながら二、三日たつと、トトは私たちが出かける際に玄関まで出てせつなそうに鳴くこともなく、いってくるねと撫でさすっても「ふーん」みたいな無関心な顔つきをするようになった。トトはものすごく自然に我が家の猫になった。もっと躊躇とか、戸惑いとか、ないのだろうかとこちらが心配になるくらいである。そして私は、猫という生きものにいちいち驚かされることになる。

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